潰瘍性大腸炎は大腸に限局して炎症がみられる原因不明の難治性疾患であり,厚生労働省の特定疾患に指定されている。発症原因については種々の研究が行われ,腸内細菌の関与や自己免疫の成立,遺伝的素因などが原因として考えられているが詳細は不明である。平成13年におけるわが国の患者数は約7万人とされており,欧米と比較すると少ない。しかし,この20年間,毎年約5千人の割合で急激に増加しており食生活の欧米化による変化も原因の一つに考えられる。発症原因が不明であることから特効薬は見いだされておらず,治療薬の開発が望まれている。
これまで,実験動物にデキストラン硫酸ナトリウムを飲料水に混ぜて投与して誘発される潰瘍性大腸炎が潰瘍性大腸炎の研究用モデルとして繁用されてきた。我々は,このモデルを用いて潰瘍性大腸炎の発症機序を検討し,発症には腸内細菌が関与することやデキストラン硫酸ナトリウムによって大腸上皮細胞の細胞分裂が抑制されて炎症および潰瘍に至ることなどを明らかにしてきた。
一方,ローヤルゼリーは,これを与えられた幼虫が女王バチとなり体格も大きく生存期間も非常に長いことからその薬理活性に興味が持たれ種々の検討が行われてきた。その中にはローヤルゼリーは抗炎症作用および創傷治癒作用を示すとの報告もみられる。そこで,マウスの潰瘍性大腸炎に対するローヤルゼリーの潰瘍性大腸炎予防効果および治療効果について検討した結果,ローヤルゼリーは予防効果は示さないが,治療効果および潰瘍性大腸炎の回復効果を示すことを明らかにした。さらに,ローヤルゼリーの大腸上皮細胞の細胞分裂に及ぼす影響を検討し,ローヤルゼリーは大腸の上皮細胞の細胞分裂を促進することを明らかにした。大腸を含む腸管の上皮細胞は活発に増殖しており,増殖することによって腸管の形態および機能が保たれている。したがって,ローヤルゼリーは,ヒトの潰瘍性大腸炎の治療および回復効果,あるいは腸管の機能維持に有用である可能性が考えられる。
本研究は、我々の身の回りの様々なストレスから身体を守る術をローヤルゼリー(RJ)から見出すことを目的としている。本年度は、ショウジョウバエを用いた研究により、RJの摂取が雌の産卵数を有意に増加させること、また成長速度の遅延や成虫個体のサイズ減少が部分回復するとの結果を得た。また、RJからエネルギー代謝を亢進できる可能性のある成分として、8-ヒドロキシオクタン酸と1,6-ヘキサンジカルボン酸を見出した。これらの成分の効果は、RJ中の主要なヒドロキシ脂肪酸である10-ヒドロキシデセン酸(10-HDA)や10-ヒドロキシデカン酸よりもやや強かった。さらに、昨年度の研究で報告したRJが有する胃粘膜肥厚抑制作用は、その主要成分である10-HDAに起因することが示唆され、10-HDAが消化管より体内へ吸収される可能性を示す結果が得られた。