高齢化社会の到来とともに、脳神経系に障害を持つ疾患が増加しつつある現在、その予防や治療に有効な物質が社会的に要望されている。ローヤルゼリーの神経系への作用は特に興味深い。これまでも神経細胞のモデルとしてPC12細胞を使用し、研究してきたが、PC12細胞の突起形成を促す因子としてローヤルゼリー中にアデノシン(Ado)とアデノシン1リン酸 (AMP) のN-オキサイド誘導体(NO)を同定し、ローヤルゼリーから精製したものについて活性評価を行ってきた。しかしこの構造をもつ物質が真の活性実体かどうかはこれを合成した上で同じ活性をもつことが証明されないと正しくない。そこで本年度はこれら分子を大量に化学合成し、その活性を動物または細胞を用いた実験系で評価した。
1)凍結脳損傷を与えたマウスについて、脳・血液関門の障害修復に及ぼす効果を調べた。損傷の作製3-4日前から作製2-3日後までAdo-NOまたはAMP-NOを腹腔内投与したマウスでは静脈注射したエバンスブルーの脳実質への漏出が有意に抑制された。この結果は脳損傷の修復に関連する脳・血液関門の修復がAdo-NO、AMP-NOの投与によって促進されたことを示し、同時にAdo-NO、AMP-NOによる脳損傷修復効果が示唆された。
2)化学合成したAMP-NO、Ado-NO についてPC12細胞の突起形成作用Ado及びAMPの作用と比較した結果、NO型は非NO型の50-100倍強い活性を示すことが明らかとなった。また増殖停止効果についても類似の結果が得られた。以上の結果より、Ado-NOまたはAMP-NOは天然のアデノシン化合物に比べてはるかに強い神経分化誘導活性を有しており、ローヤルゼリー固有の化合物であることから、ローヤルゼリーのもつ神経系への作用を担う主要な分子であると考えられた。